キュウリ由来イミノシュガー酸「idoBR1」定量分析 受託サービス
✅ HPLC-MS/MSを用いた測定により、市販キュウリに「idoBR1」が含まれていることを確認
機能性植物研究所ではこのたび、市販のキュウリから抗炎症性イミノシュガー酸「idoBR1(3,4,5-トリヒドロキシピペリジン-2-カルボン酸)」の検出・定量が可能になりました。
idoBR1とは?
「idoBR1(正式名:(2R,3R,4R,5S)-3,4,5-trihydroxypiperidine-2-carboxylic acid)」は、キュウリ(Cucumis sativus)から発見されたイミノシュガー酸です。
構造的には、ピペリジン環(6員含窒素環)に、アミノ基(–NH)、3つの水酸基(–OH)、およびカルボン酸基(–COOH)を有する高極性化合物です。
このような構造は、天然物としては非常に稀であり、酵素(特にグリコシダーゼ類)との特異的な相互作用や、炎症性サイトカインの抑制効果といった機能性に寄与していると考えられます。しかし、構造の特殊性と極性の高さから、一般的な分析法では定量が困難とされてきました。
HPLC-MS/MS(トリプル四重極型質量分析計)を用い、微量でも正確な定量を可能とする分析方法を確立しました。
これをもとに、企業・研究機関向けの受託分析サービスを開始しております。
1. はじめに
キュウリは古代エジプトやギリシャ、ローマでも肌荒れや炎症ケアに利用されてきた植物であり、現代でも「クマ取り」や「日焼けケア」に使われるほど、その抗炎症効果は民間レベルで広く知られています。
近年、こうした“伝統的知見”を科学的に裏付ける研究が進む中、キュウリの中に抗炎症活性をもつ特異な天然成分「idoBR1」が存在することが明らかになってきました。
ACS Omega, 2020, 5(26), 16263–16271.
2020年のACS Omega誌に掲載された本研究では、キュウリから単離されたイミノシュガー「idoBR1」が、ヒト血管内皮細胞モデルにおいて炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-6)の発現を有意に抑制することが報告されました。さらに、idoBR1を規格化したキュリエキス(Q-actin™)による変形性関節症モデルへの応用効果も確認されており、安全性にも問題は見られなかったとされています。本研究は、idoBR1が持つ抗炎症作用の分子機構解明に向けた基礎的知見を提供しています。
しかし、この成分は、従来の分析方法では測定が困難だったため、「idoBR1は含まれているかもしれないが、本当に測った人はいない」という状態が長らく続いていました。そんな中、弊社ではこのidoBR1をHPLC-MS/MSで定量する体制を確立し、市販のキュウリからの定量に成功しました。現在では、企業や研究機関を対象としたidoBR1定量の受託分析サービスを正式に提供しています。
2. idoBR1の機能性とは?
idoBR1は、以下のような特長を持ち、医療・機能性素材の両面から注目を集めています。
- 【シアリダーゼやイズロニダーゼの阻害作用】
idoBR1は、ヒト由来のα‑L‑iduronidaseや細菌・免疫細胞のシアルダーゼを選択的に阻害し、その結果ヒアルロン酸–CD44結合経路を介して炎症因子産生を抑制すると報告されています。 - 【TNF-αやIL-6といった炎症性サイトカインの抑制】
IdoBR1は、LPS刺激により誘導されるTNF‑αやIL‑6などの炎症性サイトカインを、濃度依存的に抑制することが、マウスミクログリア細胞を用いた研究で報告されています
Iminosugar amino acid idoBR1 reduces inflammatory responses in microglia.
Molecules, 2022, 27(10), 3342. - 【サプリメント素材「Q-actin™」の有効成分として使用】
Q‑actin™(idoBR1含有キュウリ抽出物)は、変形性関節症モデルのヒトを対象に、20 mg/日摂取でWOMACスコアがプラセボ群比32%改善、100 mg/日ではさらに効果が増大したとの報告があります。
Standardised ido‑BR1 Cucumber Extract Improved Parameters Linked to Moderate Osteoarthritis in a Placebo‑controlled Study.
Current Rheumatology Reviews, 2023, 19(3), 345–351. - 【変形性関節症モデルでも炎症抑制効果が報告されており、安全性も確認済み】
男性56名・女性66名、40〜75歳の中等度変形性膝関節症患者122名を2群に分けQ Actin™(10 mg×2回/日)とグルコサミン/コンドロイチン(1,350 mg×2回/日)を比較- 180日間の追跡で、Q Actin™群はWOMAC スコアが30日で–22%、180日で–70%と有意改善
- 対照群(GC)の–14%/–33%と比較し、Q Actin™の優位性が示されました。副作用の報告はなし
・Effectiveness of Cucumis sativus extract versus glucosamine-chondroitin in the management of moderate osteoarthritis: a randomized controlled trial.
Clinical Interventions in Aging, 2018, 13, 2119–2126.
また、idoBR1は天然由来の「イミノシュガー酸」というカテゴリに属しますが、このタイプのアミノ酸は自然界でも極めて稀です。その構造上、一般的なクロマトグラフィーやHPLC-UV法では検出が難しく、 高感度かつ選択性の高い質量分析(HPLC-MS/MS)を用いた測定が最適といわれています。
3. なぜ分析が難しかったのか?
idoBR1は、その構造特性ゆえに、従来の分析法では定量が困難とされてきました。
■ UV検出では測れない理由
idoBR1は、一般的なポリフェノールやカロテノイド類などとは異なり、UV吸収をもつ官能基(クロモフォア)を構造中に含まないため、従来のHPLC-UVや吸光分析では検出自体が難しいです。また、理論的にはアミノ基を利用した誘導体化も可能と考えられますが、idoBR1は極めて極性が高く副反応が起こりやすいため、従来の誘導体化HPLC法では安定した定量が困難とされています。
- ✘ UV・可視光での吸収ピークがほぼなし
- ✘ 蛍光試薬などのラベル化剤による誘導体化も困難
■ 極性が高く、逆相カラムには保持されにくい
idoBR1は、水酸基を3つも持つ強極性構造であるため、通常のC18カラムなどの逆相HPLCでは保持が難しく、溶出が早すぎてピーク分離が困難となります。このため、親水性相互クロマトグラフィー(HILIC)により、idoBR1を保持することが可能です。
- ✘ 保持時間が短すぎてピーク確認不可
- ✘ 他のアミノ酸・糖・不純物とオーバーラップ
💡 HILICの導入と効果
これに対して、HILIC(Hydrophilic Interaction Liquid Chromatography)は、極性化合物を保持・分離するのに最も適したLCモードです。
- ①極性基と固定相の水素結合で保持を確保
idoBR1の水酸基は、HILICの固定相(例:アミド・ジオール・シリカ)と水素結合/静電的相互作用を形成
その結果、保持時間が延長し、選択的な溶出が可能になります - ②不純物との分離精度が大幅向上
HILICでは保留時間差が拡大し、周辺アミノ酸類・糖類とidoBR1とのピーク分離が可能に。
サンプル中に多数の親水性不純物が存在していても、idoBR1だけを高感度にモニターできます。
4. 分析方法とサンプルについてのご案内
idoBR1は、極めて極性の高いイミノシュガー酸であり、従来のHPLCやUV法では正確な定量が困難とされてきました。当ラボではこの課題を解決すべく、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)とトリプル四重極型HPLC-MS/MSを組み合わせた分析手法を構築しています。
①測定に用いる主な分析条件
- 分析装置:トリプル四重極型 HPLC-MS/MS(高感度・高選択性)
- クロマトグラフィー:HILICカラムを使用し、idoBR1の保持と分離を実現
- 内部標準法:検量線を用いた定量分析
- 試料調製:サンプルにより抽出条件のバリデーションを実施することも可能
②分析の特長
- 微量成分にも対応可能(数ngレベル〜)
ごく少量のidoBR1も検出できる感度を確保 - 安定した測定精度(ばらつき10%未満)
再現性を重視した条件設計により安定した定量が可能 - ご依頼から約1週間でご報告(目安)
通常は7営業日以内、混雑状況により調整可 - 他成分との干渉を抑えた分析設計
極性成分が多いサンプルでも干渉を最小限に抑制
③受付可能なサンプル
- 植物体、サプリ原料、抽出物、粉末原料など
- ※高含水試料は、凍結乾燥し粉末化にしてから抽出
