桑(クワ)の機能性と多用途性:健康食品素材としての可能性

1.はじめに:桑とはどんな植物か?

桑(クワ)は、古来より養蚕業や薬用、食用に活用されてきた多機能植物です。クワ科クワ属の落葉広葉樹で、原産地は中国北部から朝鮮半島。日本には古代に渡来し、現在では北海道から九州までの広範囲にわたって自生し、一部では栽培されています。

その用途は時代とともに多様化し、現代では「機能性食品素材」、「健康茶」、「漢方」、「工芸品の木材」として幅広く活用されています。特に注目されているのが、桑葉に含まれるイミノシュガー類(別名:アザ糖類)です。

消費者庁「機能性表示食品の制度について」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/

2.桑の主な品種とそれぞれの特性

◆ マグワ(学名:Morus alba L./通称:トウグワ)

– 原産地:中国北部~朝鮮半島
– 特徴:葉が柔らかくカイコに適した飼料植物
– 用途:養蚕、漢方薬、健康食品
– 歴史:古代からインド・日本を経て、シルクロードを通じて12世紀にはヨーロッパにも伝播

◆ ヤマグワ(学名:Morus bombycis L.)

– 原産地:日本在来
– 特徴:果実は食用としても親しまれ、木は強靭
– 高さ:5〜10メートル以上に成長
– 葉:濃緑でざらつきあり
– 用途:果実利用・木工品・桑茶など

3. 桑の多様な活用方法

3-1. 養蚕業と桑の役割

桑葉は、カイコが繭を作るための唯一の主食です。マグワは特に高品質の繭糸を産出する飼料植物として重宝され、養蚕業の根幹を支えてきました。しかし、現代では養蚕業の衰退により、桑畑の耕作放棄が地域課題となっています。

3-2. 食品・健康食品としての桑

以下は、桑の部位ごとの特徴と機能性、利用形態のまとめです。

部位 特徴・主成分 利用方法 期待される健康効果
桑の実 アントシアニン、レスベラトロール ジャム、ジュース、スイーツ、健康食品 抗酸化作用、目の健康、老化予防
桑の葉 イミノシュガー類(DNJ、ファゴミン)、ポリフェノール、食物繊維 桑茶、青汁、サプリメント 食後血糖値の上昇抑制、腸内環境の改善、抗酸化作用
桑の根皮(桑白皮) フラボノイド、利尿・鎮咳成分 漢方薬(煎じ薬) むくみ予防、咳や喘息の緩和

■ 桑の実(マルベリー)の活用

● 特徴
桑の実は、初夏に熟す黒紫色または赤紫色の果実で、やや甘酸っぱい風味を持ち、品種によっては白色も存在します。特に黒紫色の実にはアントシアニンが豊富で、目の健康や抗酸化作用が期待される果実として注目されています。

● 主な成分・栄養価:
アントシアニン(主にシアニジン-3-グルコシド)
→ 視機能サポート、抗酸化、毛細血管保護
イミノシュガー類(アザ糖類)※含有量は桑葉より少ないが有意
小腸における糖吸収抑制作用があり、血糖値の急上昇を防ぐ働き

【参考論文:アントシアニン】
3-1:Analysis and Characterisation of Anthocyanins in Mulberry Fruit.
Czech Journal of Food Sciences, 2010, 28(2), 117–126.
🔗 https://www.agriculturejournals.cz/pdfs/cjf/2010/02/04.pdf

3-2:Extraction and Stabilization of Anthocyanin Pigments from Morus alba Fruits.
Journal of Applied Biological Chemistry, 2014, 57(1), 29–32.
🔗 https://doi.org/10.3839/jabc.2014.005

3-3:Comparative Transcriptome Analysis of Mulberry Reveals Anthocyanin Biosynthesis Mechanisms in Black (atropurpurea Roxb.) and White (Morus alba L.) Fruit Genotypes.
BMC Plant Biology, 2020, 20, Article 279.
🔗https://bmcplantbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12870-020-02486-1

-ビタミン類(C、E、Kなど)

-ミネラル類(鉄分、カリウムなど)
-食物繊維(ペクチンなど)
-レスベラトロール(抗炎症・抗老化)

【参考論文:レスベラトロール】
3-4:Antioxidant Activity and Mechanism of Resveratrol and Polydatin Isolated from Mulberry (Morus alba L.).

Molecules 2021, 26, 7574.

🔗 https://doi.org/10.3390/molecules26247574

● 期待される健康効果:
-視力維持・眼精疲労の緩和(アントシアニン)
-糖の吸収抑制・食後血糖値の抑制補助(DNJ)
-美肌・抗老化・抗酸化(ビタミン・ポリフェノール類)
-貧血予防(鉄分)、便通改善(食物繊維)

● 加工利用の例:
-ジャム、ジュース、スムージー、ドライフルーツ
-グミ、ゼリー、アイス、焼き菓子
-果実酒(マルベリーワイン、リキュール)や酢製品
-冷凍ピューレや業務用素材としても活用される

● 活用動向:
機能性食品素材としての応用研究も進行中(特にアントシアニン・DNJの機能性評価)
観光資源(摘み取り体験)や地域特産品開発としても注目
今後、機能性表示食品制度での活用可能性も模索されている

■ 桑の葉(桑葉)の機能性

● 利用形態:
桑葉は、健康茶・青汁・粉末加工食品・サプリメントの原料として広く活用されており、特に糖尿病予防や生活習慣病対策を意識した健康志向層に支持されています。

● 主な有効成分:
イミノシュガー類(アザ糖類)
代表例:1-デオキシノジリマイシン(DNJ)、ファゴミン、GAL-DNJ
小腸内でのα-グルコシダーゼ阻害作用により、糖の吸収を抑制

【参考論文:アザ糖類】
3-5 :Kinetic analysis of inhibition of α-glucosidase by leaf powder from Morus australis and its component iminosugars.
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 2020, 84(10), 2149–2156.
🔗 https://academic.oup.com/bbb/article/84/10/2149/6044519?searchresult=1

・ポリフェノール類
ケルセチン誘導体(抗酸化、抗炎症作用):フラボノイド系ポリフェノールの一種で、強力な抗酸化作用を持ち、細胞の酸化ストレスを軽減する働きがあります。さらに、抗炎症作用を通じて血管内皮機能の改善や、免疫バランスの調整にも寄与するとされます。桑の葉にはケルセチン-3-O-グルコシドなどの誘導体が含まれ、これらが機能性に関与していると考えられています。

【参考論文:ケルセチン誘導体】

3-6:Antioxidant and anti-inflammatory activities of quercetin and its derivatives.
Journal of Functional Foods, 2018, 40, 68–75.

🔗 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1756464617306588

3-7:Vasodilator effects of quercetin in isolated rat vascular smooth muscle.

European Journal of Pharmacology.1993,239,1-7.

🔗https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/001429999390968N?via%3Dihub

クロロゲン酸(脂質代謝や糖代謝への影響):主にカフェ酸とキナ酸から構成されるポリフェノールで、脂質代謝や糖代謝を調節する作用が報告されています。具体的には、小腸での糖吸収を抑制するα-グルコシダーゼ阻害活性や、肝臓での脂肪蓄積抑制作用(脂肪酸合成関連遺伝子の抑制)が示されています。また、桑の葉や実にも微量ながら含まれているとされ、代謝系に有益な影響を及ぼす可能性がある成分です。

【参考論文:クロロゲン酸】

3-8:Identification of Chlorogenic Acid from Morus alba Leaves by UV-Vis Spectroscopy, FTIR, UPLC-QTOF-MS and Quantification by HPTLC.
Communications in Soil Science and Plant Analysis, 2023, 54(6), 1–13.
🔗https://www.ingentaconnect.com/content/tandf/csspa/2023/00000054/00000006/art00001

3-9:Pharmacognostic Specifications, RP-HPLC Analysis of Chlorogenic Acid Content and Antioxidant Activity of Morus alba Linn. Leaves in Thailand.

Pharmacognosy Journal, 2021,13(5),1186-1194.

🔗 http://dx.doi.org/10.5530/pj.2021.13.152

3-10:Coffee polyphenols suppress diet-induced body fat accumulation by downregulating SREBP-1c and related molecules in C57BL/6J mice.
American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism, 2011, 300(1), E122–E133.
🔗 https://doi.org/10.1152/ajpendo.00441.2010

3-11:Consumption of Coffee Polyphenols Increases Fat Utilization in Humans.

Journal of Health Science, 2010, 56(6), 745–751.
🔗https://doi.org/10.1248/jhs.56.745

その他栄養素
-食物繊維(整腸作用)
-ミネラル類(カルシウム、鉄、亜鉛など)
-葉緑素(クロロフィル)(デトックス、抗酸化)
-ペクチン(腸内環境改善)

● 期待される機能・作用
糖の吸収抑制・食後血糖値の上昇抑制
→ DNJが小腸の糖分解酵素を阻害し、糖尿病予防・食後高血糖対策として注目
抗酸化作用・アンチエイジング
→ ポリフェノールやクロロフィルにより、活性酸素除去、細胞老化抑制
脂質代謝改善・肥満予防
→ 中性脂肪・コレステロール低下の可能性(研究報告あり)
高血圧の予防
→ NO(一酸化窒素)産生の促進やGABA配合製品による血圧低下作用が期待
整腸作用・便通改善
→ 食物繊維やペクチンが腸内環境を整える

● 機能性表示食品への利用状況(2025年6月現在):
「桑の葉由来イミノシュガー」を機能性関与成分とした血糖値対策製品が多数届出

届け出数 販売中
52件 30件

一部製品では、GABAを含有する桑葉エキスを用いて、ストレス緩和や血圧対策機能も表示

● 安全性と副作用:
・通常量の摂取では安全とされるが、大量摂取により胃腸症状(腹部膨満、軟便など)が報告されることもあり
・妊娠・授乳中の摂取や薬剤との相互作用には注意が必要

● 応用分野の拡大:
・機能性食品素材開発のほか、農産加工品、特産品開発(地域ブランド)、さらには飼料や化粧品原料としての利用も検討中

■ 桑の根皮(桑白皮)と漢方的効能

• 利用部位:桑の根の樹皮部分(内側の皮)
• 漢方名:桑白皮(そうはくひ)
• 主な用途:
桑白皮は、伝統的な漢方薬として古来より咳や喘息、気管支炎の緩和に用いられ、また利尿作用によってむくみ(浮腫)や排尿困難の改善にも使われています。
• 配合される代表的な漢方薬:
● 五虎湯(ごことう):咳や喘鳴(ぜんめい)に
● 清肺湯(せいはいとう):痰が多く出る咳や気管支炎に
● 杏蘇散(きょうそさん):咳、痰や気管支炎に
• 民間療法、応用処方
● 桑白皮湯(そうはくひとう):潤肺・去痰に優れる/小児向け/熱性症状もケア
• 薬理作用の例:
● 鎮咳・去痰作用
● 抗炎症作用
● 利尿作用
● 抗アレルギー作用が報告されることもある(研究段階)

【参考論文:抗アレルギー作用】

3-12:Morus alba L. Plant: Bioactive Compounds and Potential as a Functional Food Ingredient Foods, 2021, 10(3), 689.
🔗 https://doi.org/10.3390/foods10030689

3-13:Evaluation of Antioxidant and Antibacterial Activities of White Mulberry (Morus alba L.) Fruit Extracts. Plants, 2021, 10(12), 2736.
🔗 https://doi.org/10.3390/plants10122736

3-14:Bioactive Compounds and Antioxidant Activity in Various Parts of Morus alba L. Cv. Ichinose: A Comparative Analysis. Discover Life, 2024, 54:7.
🔗 https://doi.org/10.1007/s11084-024-09650-9

• 現代での応用:
近年では、桑白皮由来の抽出成分が機能性食品素材としての応用も模索されており、血糖値の抑制作用や抗酸化作用などの可能性についても研究が進んでいます。

3-3. 木材・伝統工芸分野での利用

桑の木材は、その美しい木目と高い耐久性から、古くから高級木材として珍重されてきました。木質は緻密で硬く、経年変化によって深みのある色合いへと変化することから、家具や工芸品に長く使用される素材として広く親しまれています。

■ 木材の特徴

美しい木目:黄褐色から時間とともに深褐色へ変化し、使い込むほどに艶と風格が増します。
高い耐久性と加工性:硬くて粘りがあり、細工や彫刻にも適しています。
防虫・耐腐食性:虫害や湿気への耐性があり、保存性に優れています。
希少性:現代では入手困難な天然桑材は高級木材として扱われています。

■ 主な用途

和家具:茶箪笥、長火鉢、文机、座卓などに多用され、古民家や茶室の調度品として重宝
仏具・宗教用具:仏壇や位牌など、格式の高い宗教用具に使用
和紙原料:特に内皮繊維が強靭で、漉いた紙は耐久性に優れるため、一部地域の製紙原料として活用

■ 工芸品としての活用

地域の伝統工芸:福島県会津や埼玉県川越などでは、桑材を使用した蒔絵細工や木工品の製造が継承されており、茶道具や文箱などが制作されています。
高級日用品:箸、筆軸、将棋盤、扇子の骨など、手に触れる道具に用いられることが多く、使うごとに手になじむ風合いが魅力です。
現代クラフトへの展開:クラフト作家による現代的デザインの家具やインテリア雑貨にも採用され、天然素材としての価値が再評価されています。

4. 弊社取扱い製品:桑葉由来アザ糖類標準品(研究・分析用)

4-1. 製品の特長

– 高純度
– 分析試験や機能性表示食品の成分確認に対応
– 製品ロットごとに成分規格証明書の発行が可能

4-2. 用途例と購入案内

– 機能性表示食品の関与成分分析
– 原料評価・機能性研究
– 健康食品・サプリメント開発の標準品

購入・資料請求について
製品の仕様、価格、ロットサイズ、サンプル提供などの詳細情報は、以下の製品案内ページからご確認いただけます。

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5. 北海道と桑の歴史:開拓と養蚕の記憶

5-1. 養蚕の広がりと地域産業

明治時代の北海道開拓期には、本州からの移住者により桑の植栽と養蚕が盛んに推進されました。明治政府の殖産興業政策の一環として、絹糸の輸出による外貨獲得が重要視されており、桑栽培は各地に広がりました。
当初は寒冷地での桑の生育は困難とされていましたが、品種改良や栽培技術の導入によってマグワやヤマグワが道内でも栽培可能となりました。とくに渡島半島(函館周辺)や空知地方では、養蚕を中心とした農業経済が一部成立し、学校教育でも蚕の飼育が行われるなど、地域に密着した産業となっていました。
大正~昭和初期にかけて、北海道でも養蚕業は全盛期を迎え、多くの農家が副業として蚕を育てていました。当時は、桑畑が農村風景の一部であり、農業の多角化の象徴でもありました。
戦後の化学繊維の台頭やライフスタイルの変化により、養蚕は急速に衰退し、桑畑の多くは耕作放棄地や宅地へと変貌しました。それでもなお、かつての桑畑の名残として野生化した桑の木が土手や畦、学校跡地などに見られます。これらは、北海道における養蚕と桑の歴史を今に伝える「生きた文化遺産」とも言えます。
近年では、機能性食品素材としての桑葉や実への再評価が進んでおり、北海道内でも地元農家や企業が桑を再び栽培・加工し地域ブランド化する動きが見られます。例えば、道南地域では桑の実を使ったワインやジャム、健康茶の開発が進んでおり、観光資源としての活用や六次産業化の一翼を担っています。
また、北海道の冷涼な気候は特定のポリフェノール含有量を高める可能性が指摘されており、今後の機能性成分研究のフィールドとしても注目される地域です。

5-2. 桑園駅とその地名の由来

北海道札幌市中央区に位置する「桑園(そうえん)駅」は、その地名の通り、かつてこの地域が大規模な桑畑であったことに由来しています。
明治時代から昭和初期にかけて、札幌市内にも養蚕を支えるための桑園が設けられ、現在の桑園地区一帯はその主要な供給地でした。特にこの地域は、北海道開拓使の直轄農場や教育機関による実験栽培の場ともなっており、北海道における蚕糸業の中核のひとつでした。
その後、都市化の進展とともに桑畑は姿を消しましたが、「桑園」という地名は、札幌市の養蚕の歴史を今に伝える重要な文化的痕跡となっています。現在では、JR桑園駅や桑園小学校などにその名が残り、地域の歴史と誇りを象徴しています。

6. まとめ:桑の可能性を活かす製品提供

桑は伝統素材にとどまらず、健康・美容・地域振興に貢献する次世代素材です。弊社製品をぜひご活用ください。



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